VOICES
––– 改めまして、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?
はい、芸術資料館の学芸員の、松井菜摘と申します。
––– よろしくお願いします。普段はどんなことをされているんですか?
資料館の資料の調査研究と、それを活用した収蔵品展をやっています。といっても雑務が多いですね(笑)外部からの貸し出し依頼寄や付の申し出への対応が多いです。
––– お忙しい…
忙しいです(笑)
––– こういった展示の企画もされるんですか?
そうですね。このキャンパスで全部過ごせるのが今年度が最後なので、沓掛キャンパスを振り返れるような展示をしています。今回は特に、ここのキャンパスで制作された作品を展示しているので、新しいものが多いですね。とくに卒業作品を中心に並べてます。卒制はいちど収蔵してしまうとあまり外に出せない。美術館、博物館は、もう評価が定まったものしか収蔵、公開しないんです。ギャラリーだと現役の作家の作品を出しますけどね。他の美術館博物館(以降:博物館)だと、あまり若い作家の作品は展示できない。大学付属だからできる展示ですね。
じゃあ収蔵庫のほうにご案内しますね。
–––ありがとうございます!
はいどうぞ~
––– 失礼します!
––– 前に実習の授業で来ました。
本当!取ってる?
––– 取ってます!今年。
そうなんだ!なら記憶に新しいですかね。あ、ダメだ電気が切れてる…ちょっと待ってくださいね…はいどうぞ!
––– ありがとうございます!
はい収蔵庫です。移転を控えてるので、箱に入っていない作品に箱を作ったりして準備してます。本当に数が多い…(笑)次の収蔵庫はこれより大きくなるので、うまいこと収めたいと思うんですが。
–––うわ~!迫力ありますねえ!
こだけじゃなくて音高にもあるんですけど。卒制とか、元教員の方の作品とか。引っ越しが大変なんですよ。
––– すごいですねここ。
ちょっとねえ…引っ越しが大変すぎて、今から来年が気が重いんですよね(笑)
––– じゃあ来年の主な仕事は…
もう引っ越しです(笑)引っ越しの準備と、引っ越し。でも、収蔵庫の状態によってはすぐ引っ越しもできなくて。建築したての建物って、収蔵品の保存に影響のある物質が発生しちゃうんです。それが作品によくない。だから、それを枯らす期間が必要なんです。人が大丈夫でも、作品にとってはまずい、ということもあるんですよね。だから、10月には引っ越せない可能性も十分にあって。ちょっとね…不安でしかないです(笑)でも人の作品守るためなんで。それは調整しないとけない。
–––ここら辺日本画が多いんですね。
そうですね、卒業作品は基本日本画が多くて。
–––そうなんですね、あ、ここは油画もある。大きいですね…!
油画とかは、卒制で大きい絵を描く人が多いので、なかなか大変なんです(笑)
ここら辺はお軸類。ここは古い布が収まってます。この辺は古い、図案科時代の作品ですね。仮の軸装なので傷みが酷くて。
––– なんか、ハリーポッターの杖屋さんみたいですね。
あ、なるほど(笑)
この辺は卒制と古い作品が並んでます。ここは陶芸とか、張り子の作品もありますね。あそこにね~、古いマネキンがあってちょっと怖いんだよね~
–––うわ怖…何であるんですか?
多分人体描く見本とかかな?あとは着物とか着せてモデルにしてたのかな。
あこれ石原先生(油画)やな。結構、今の先生たちの卒業作品とかもあります。
––– この前ここら辺でV Dの先生の作品を見ました。あ、浅井忠!堂本印象もありますね。
うちにある唯一の浅井忠です。水彩。あんまり古い油画の作品はないかな。
––– 移転後はもっと広くなるんですよね?
なります。でも卒業作品は増えますし、後寄付の申し出もありがたいことに何件かあるので。収蔵作品は基本、増えることはあっても減ることはない。卒業作品が例年入ってくるところは大変なんですよ。東京藝大は取手に収蔵庫を持ってるそうです。
–––松井さんはこの前にどこか美術館で勤められてたんですか?
はい、神戸市の美術館に。
–––そうなんですね、その時とお仕事内容で違うところってあったりしますか?
いっぱいあります。まず、普通の美術館博物館(以降:博物館)で収蔵している作品は、いわばお宝なので、展示して、人に見てもらって、また収蔵庫に入れる、の繰り返しなんです。だから、一般の人の目に触れる機会は展示だけ。でもここは「学生たちの教材である」というのが、一つの大きな要素なので、例えば卒制のためにとか、授業の一環でと、随時人の目に触れ、授業で活用されます。それが大きな違いですね。
もうひとつ面白いなと思うのが、実際学生が制作やってるところに行って、どんな技法なのか知れるということ。普通なら、学芸員は作品を文献で調べたり、他の館に持って行って調査したりという見方が基本ですから。それはすごくありがたいなと思います。ものを作る様子を見に行けるっていうのは本当に大きい。一般の館なら当然、出来上がったものしか見ないので。今まさに作ってる現場、作ってる人たちの様子も含めて見れるというのは、芸大ならではだなと思います。収蔵品の研究にも活かしています。
–––そんな目で京芸を見たことが無かった…そんな見方もあるんですね。
そうですね、それと作家って、当然亡くなってる人が多い。作家が若い時にどんなこと考えて制作してたのか考える時に、今学んでるみんなの様子を手掛かりにしたりします。昔の作品って、もうモノとしてしか見られないように思いがちですが、現実で頑張っている学生たちを見ると、その作家も実際生きて悩んで生み出したんだろうと思いを馳せられる。普通の美術館にいるだけでは考えないようなことですよね。
––– すぐそこにいますもんね。
––– そういう点で見た時に、京芸の学生たちはどう映りますか?
私は総合の4年制大学を出てるんですけど、やっぱり全然違います(笑)普通の大学だと、あ~授業怠いなとか、サボっちゃう?とか、大学入ったは良いけど何のために?みたいな人いたので(笑)でもここに来る子たちは、目的意識がある子たちで、他の大学のゆるさとか甘さとかがない。それは良いなと思いますね。だからみんな苦しんでるんだと思うんですけど(笑)芸術のことについて、誰に聞いてもみんなしっかり自分の考えを返してくれる。そういうのがあるので、実際制作風景を見せてもらうのも面白いし、質問してもちゃんと答えてくれるのが、やっぱり良いなと思います。
––– ぼやぼややってると返せないですもんね。
そうですね。だからやっぱり、芸大は面白いと思います。