VOICES
––– よろしくお願いします。もうすでに外に出ている状態ですが…
とりあえず歩きますか。
––– そうですね。
今朝物理の授業で、物を同時に落とす、ガリレオのピサの斜塔の実験を新研究棟の屋上からやろうとしたんだけど、流石に安全に落とせる場所がなくて断念した(笑)
––– それは流石に…
中央棟の3階から、普通に落としたよ。それをスーパースローカメラで撮ってみた。で、それはもう終わったから、スーパースローで撮りたいものある?って聞いたらメントスコーラやりたいっていうから、やりました。
––– よくやってません?
前はメントス入れてないから。だた振っただけだから。ちゃんとよく飛ぶメントスコーラのやり方調べてね。
––– それでウィルキンソン持ってるんですか?
これは飲用(笑)これね、これでは足らんねん(笑)全然あかん。1.5リットルないとだめってことが、わかった(笑)
––– 外で授業やったりするんですね。
そう。そもそも7月と1月は、京芸生はあまり機能しないということがわかったので(笑)
––– ハハハハハハ(笑)
7月1週目で真面目な授業は終わります。そこからは自由研究系で。
––– ハッハッハッハ(笑)
期末に重たいものやっても意味がないということがよ~くわかった。
––– 先生は着任されて何年目でしたっけ。
5年目。
––– 5年目でそれが判明したんですね。
うん。4回やってようやくわかった。
––– 本当に機能しませんもんね。学校にはいるんですが。
そうね。7月のほうがまだまし。1月は本当にだめ。
ここで僕らがメントスコーラやってる時に、あそこの甲冑作ってる人が来て。試着できるらしいよ。
––– ええ~…!?
最初はここで本人が着て自撮り棒持って佇んでて。メントスコーラしながら「甲冑の人いるね~」って言ってたんだけど。
––– こここんなお祭り状態になってるんですね、今日。来た時大ギャラで総基礎展の搬入してるし、甲冑はあるし、「コーラ飲みます?」って聞く人はいるし。
メントスコーラで炭酸全くないコーラが大量に余って。「捨てることは許さん」って言ったからみんな呼びかけてたね。
––– 京芸内で好きな場所ありますか?
むちゃ特定的だけど、漆工の上回生の部屋。腰には悪そうだけど、修士でこんな部屋持ってたらかっこいい~て思って。
––– あそこ特別感ありますよね。
そうそう。俺も研究室あそこがいい~て思って。行けるかも。さっき漆の三回の人と喋ってきたから…
––– 行ってみますか。
中央棟の屋上とか、池のほとりとかじゃなくて、漆の学生がいる部屋(笑)
––– つきました漆工棟。あ、涼し~
人がいない…あ、いたいた。(ノックの音)ごめんよ何度も。
(漆3回の学生「はい~」)
別件でもう一度きました。京芸 の中での好きな場所を聞かれたので、ここを答えまして…
––– さらっとだけ撮らせてください。
(「どこ撮ってもらっても大丈夫ですよ~ここら辺私のエリアです」)
良くね?このエリア。
––– いいですねえ…ここで漆を。
(「こっちは共有スペースです。漆塗らずに粘土触るときはこっちです。」)
ちょっと座ってもいい?
(「いいですよ」)
ああ~やっぱいいねこのスペース。
––– 物理や数学を他の大学でも教えられてたかと思いますが、京芸ではどこか違ったりしますか?
他の大学で物理とか宇宙とか数学とかやるよりも、より「なぜ学ぶのか」を考えるようになるね。他の大学の特に理系だと、それは当然知っておかなきゃいけない基礎なので、そこに何の疑問もない。一方で美術の学生に教える時は時間も限られて、イチから教えられるわけではない。どういうことを教えたら意味があるだろうか、みたいなことを考えるのが大きな違いかな。
––– それを踏まえたからこその授業内容の工夫はありますか?もちろん、内容がマイルドになる、などはあると思うんですけど。
マイルドはもちろん。でも統計学みたいに、社会人として知っとくべきであることや、むしろゴリゴリの世界をちょっとだけやってみる、というところもあるかな。数学の中でも応用数学ではなくて数学基礎論とか。1+1はなぜ2になるのか、みたいな、普段数学使ってる人も意識しないような基礎のところをやってみる。理系の学生は一応一通りやるんだけど、一回授業でやったら二度と人生で出会わないようなところ(笑)
––– ふふふっ(笑)
これはこんなところで役に立つよ、ではなくて、これはここで出会わなかったら一生出会うことはないよ、みたいな(笑)そういうことを教えたりする。で、そういうのがウケる(笑)
––– やっぱりそうなんですね(笑)
無限の話とかね。やっぱちょっとロマンがあるよね。
––– やっぱそういうのが好きなんですかね、この大学の学生たちは。
まあ個人差はあると思うけどね。でも選択科目だから、わざわざ取らんでもいい数学の授業取ってる人たちだからね。駒井さんもそうだったけど(笑)
––– いやほんとに、そうですね。
まあまあ、大変そうだったけどね(笑)
––– 今開講しておられる授業って、数学と、宇宙の物理、現代の科学技術、情報科学、テーマ演習でしたっけ。
学部はね。
––– それぞれを新入生に紹介する場合、難易度順に並べるとどうなりますか?
難易度順…まあ数学が一番難しいやろな。あれは本気でやるから(笑)で、難易度とはちょっと違うけど、現代の科学技術は一番真面目に…きちんと考えて欲しいと思う内容をやってる。宇宙は…時々そういうネタもあるけど、基本的には楽しい話を(笑)世界を広げてくれたらいいかな、と思う。物理はそれと数学の間。楽しい話と同時に、科学的な考え方を、物理を通じて触れてみるような。エントロピーとか、量子力学のパラレルワールドとか、たまにアートの人も解説で使うような概念をやってみようとしてます。
––– それは、先生自身の「難易度上げてみる」の狙いは何なんですか?
難易度あげたのを欲しい人もいるかなって(笑)
––– ではざっくり。京芸、いかがですか?
楽しいよ。大学としては比較的ゆるやかで。それと例えば、京大で理系の学生に教えてる時は、完全に教える側と教えられる側なんだよね。だけどここだと、みんながやってる専門分野に関しては僕は素人なので。「学生から学ぶことも多い」とかではなく普通にみんなの方が知ってるから(笑)楽しいわけだよね。僕はこうだけど、あなたはどうですかって。
––– 単科大学での学科の先生って、どんな風に過ごされてるのか見えなかったんですけど、そういう楽しみがあるんですかね、
そうだね、流石に芸術に全く興味なかったら辛いと思うけど、そこまでの人はこの大学に来ないしね。同じ単科大学でも、ついでの教養みたいになるところもあるけど、芸術の場合は何だってネタになるので。そういう意味では教えて意味がある感じがある。あと、そういうものを求めてますっていう雰囲気が大学として、美術の先生の間にもあるね。共通教育とか、美術以外の先生も大事にしてくれてるっていう空気があるので。
––– 京芸での教育として、どういう立場でありたいですか?
芸術にしても学問にしても、社会とのあり方が問われてることろはあると思う。僕がもともといた学問の世界では、結局やっぱりインパクトのある研究を、有名な雑誌に何本出せるかっていうところがずっとある。それはつまんないなって思うんだよね。大学はもうちょっと楽しい場であって欲しい。京芸に来てみると、美術学部の学生の皆さんに何のためにやってるかって聞くと、みんな大してそんなクリアな答えは持ってないんだよね(笑)
––– そうですね(笑)
でもちろんその、作家になって売れたい人もいるだろうし、単に物作るのが好きなだけの人もいると思うんだけど。みんなそれぞれがそのへん混じっていて。そういう「何でこれをやってるんだろう」というのを一緒に考えたい。バリバリ突き進んでデザイナーやアーティストをやる人もいるだろうし、そういう人の助けにもなれたらいいとは思うけど、どっちかというともう少し悩んでる人と一緒にいるような教員になりたいですかね。
––– なるほど。それは話を聞く相手としてですか?それとも、授業として何か教えて?
授業として教え…られたらいいけどちょっと何教えてらいいのか分かんない(笑)ただの話し相手、であってもいいと思うけども、それは流石に専任教員としてちょっと無責任な感じがするので(笑)もうちょっと何かできればと思うけれども。あと、ここに来たということは、僕はいわゆる研究者としての弟子、みたいな人はいなくなるんだけど。その代わり事務の人に、「磯部先生界隈みたいなのありますよね」って言われて(笑)
––– ありますね(笑)それは…
まあなんかね、自分の後を継ぐような弟子を持ちたいとか思ってたわけではないけど、界隈ができるっていうのはなんかいいなあって(笑)そんな存在になれればいいかな。専攻が合わない時に、専攻の他に頼れる先生がいるって大事かなって思ったりもするので。