VOICES
どういきましょう(笑)とりあえず、教職の説明したらいい?
––– そうですね、お願いします!
じゃあまず、研究室はここ。
––– 屋上の方から行きますか?
でも雨やで、残念ながら。
–––そうですね…じゃああっち(階段)行きますか。
なんでも聞いてください。
––– では早速。教職、いくつも授業はありますけど、先生はどんな授業を持たれてるんですか?
美術科教育法という、実際先生になった時にどう授業するかっていうのを教える授業。作り方とか、成績つけたりをどうやっていくかっていう。
––– 基本にして一番大事なところですね。毎年どれくらい先生になる人はいるんですか?
年に3~4人くらいかな。
––– あ、でも結構いるんですね。
まあまあね。
ここ先生になるための大学じゃないでしょ。その中での教職の授業っていうのは第一に、音楽とか美術を生かした仕事として大事かなと思いますね。
––– なるほど、それで今教職を教えられてるということですか。
そう、ただ単に食っていくだけじゃない。美術を広めようと思ったら、教育って大事でしょう?だから美術の教育の大切さっていうのは、他の教科に比べて大きいと思うね。
––– そうですね、しかも、あんまり美術に興味ない人だったら、学校の授業じゃないと美術に触れない
そうそう、そうでしょ?そこがあると思います。
––– 職業の一つとしての「先生」しか考えたことがなかった…
そうね(笑)でも、京芸のように、専門的にやってる人たちが教えるっていうのは大きいと思うなあ。より深く、より詳しく教えられるわけやん?
––– そうですね。
––– 京芸の大学院を卒業されて、そのあとはどんなキャリアだったんですか?
院出て、すぐ非常勤やって、3年ほど。で高校に行って先生になったんよね。
–––それはどれくらいされてたんですか?
20年。
––– 20年!!
ほとんど高校の先生やね。
––– え~!
よく制作してたのは非常階段やね。この辺とか。
––– 大きいものを作られてたんですか?
いやいや、塗装とかをね。
––– へ~!
ここ!(非常階段のドアを開ける)
––– わあ、すごい、本当に非常階段だ!初めて来ました!
嘘やん!
–––本当です!
ここで塗装してたもんなあ。
–––なかなかアグレッシブな場所ですね。
そう。全然絵描いてなかったし。
––– 痕残ってたりします?
あの辺のスプレーとかはそうかも。一部。そんな感じです。
––– 授業の内容で、京芸特有のことはありますか?
大事なことがひとつあります。京芸の人が先生になると、できない人のことがわからない。絵を書くとか、物作るとか、当たり前のようにできるでしょう。苦労はするけど、アイデアが浮かばへんとか、どう描いたらいいのか分からへんとか、そういう子の気持ちがわからない。で、もともと美術好きな人が多いやん?
––– 確かに。
そういう人が一般のクラスで教えるなら、困ってる子のこと考えながらやらなあかんよ、とは言ってる。簡単に「じゃあそれぞれアイデア出して~」とか言うやん。僕らは自由にやる方がいいけど、それが辛い人もいるよね。
––– 運動できる人が、運動音痴の気持ちわからない、みたいな。
そう、当たり前のようにできることが、できないのよ。どうしていいかわからへん人のために教えないと。やから、案外京芸の人が美術教えるの難しいねん。できちゃうから。綺麗、かっこいい、素敵、とかも、私らはすぐ言うけど、何が綺麗なのか、良いのか、そもそもそこから教えないとわからへん。それは説明してあげないと。
言葉で教えてもあかんでしょ、美術って。
––– そういうのはどうやって指導するものなんですか?
そこが研究テーマ。そもそも何で美術を学校で教えてるかとか。いろいろあると思う。言葉や数字で表せへんもんを、表現するためとか。「何で美術を学校で教えるのか」を考えるのが、今の研究テーマ。「美術とは何か」ではなく、「美術教育とは何か」。なんで子供に美術教えないといけないのか。それは回り回って、美大、京芸、芸術家の存在意義にもなる。取り巻く人を育てることによってね。「そんなん専門家にやらせといたらいいねん」じゃない。ギターできひんくてもコンサート行くやん。それは音楽の楽しさを知ってるから。絵描けへんけど見るの好き、ていう人を増やせればいいね。
––– ギター弾く人は、ギター聞いてくれる人がいないと食っていけませんもんね。
そうそう。で、ギターと出会わせるのが大事よね。
社会と美術をつなげる一つの中で、教育というのは大きな働きをする。たとえ教職を取らなくても、全てのクリエイターは伝えなあかんことを持ってるやん。この作品の魅力をどう伝えていくか。作品自体で伝えることに加えて、どう伝えればいいかっていう、教育的な視点も大事になってくるよね。
––– そう思うと、教職の資格を目指さなくても取りたい授業ですね。
うん。アーティストでやっていこうという人でも、次世代に伝えようとすると、子供に美的なものを教えるっていうことは大切で。アーティストがワークショップやること最近多いでしょ。そんな時だって、ただ単に作ってたらいいわけじゃなくて、教育的な目線で考える。子供たちが触れたものを消化していくことを考えると、教育的な視点を持って伝えたり、内容を精査したりっていうのが大事になってくるんですよね。
––– 何も言わないのもダメだし、全部言いすぎちゃうのもダメだし…
そうそう。だから、大学院では、「子供造形教育論」っていう、子供にアートを伝えるときどうやればいいのか、っていうのを考える授業もやってます。
––– へえ~!それは教職課程じゃなくて、
じゃなくて。ワークショップやるときのこととか。
––– 面白そう…
実際僕も子供に美術を教える場面とかワークショップをいろいろやってきたし。自分自身も作品作ってるから余計にね。
京芸だからこそ、広い視野で美術教育を考えることができる。他の大学ではもっと、教え方とか内容が研究されてるけど、うちの大学では「アーティストやデザイナーが教える」っていうところが特色かな。
その道の、自分もやってた人が教えるっていうのが。
そうそうそう、なんなら自分もやってる人もいるしね。美術の布教かな、布教活動(笑)
––– 宣教師ですね!
宣教師になっていくために、ここは大事かな。ま、生活のためっていうのはもちろんあります。確実に生活できますから。そして最初の方に言ったけど、専門家が教えるということは、できる人が教えるということ。できない人にも教えられるようにするのが、うちの課題かな。気をつけないと「やっぱり美術はかけ離れたものなんだ」で終わっちゃう。押しつけになってもいけない。広く偏りない芸術を見せることが大事なんよね。深く、幅広く、本物を。そういう意味では京芸は強いよね。本人がやってたり、周りにやってる人がいたりするし。
––– では最後に。京芸の学びの中で、どんな立場の人でありたいですか?
良き先輩にはなりたくないな、っていうのは、最近思います。
––– なりたくない!?
意地悪な先輩になりたい、ってことじゃないで(笑)自分の経験や学生時代の困難を元に学生にアドバイスするのは往々にしてある。でも時代も違うし、おっさんの昔話やっても仕方ないかなと思ってます。特に、うちの大学ってすごい良い大学なんですよ。だからこそ、つい昔に戻りがちなんですよね。それはどうなんだろう?と。今を生きている学生たちが自分たちで築いていくものやから、あんまり昔話は言わず。今を同時に生きる人同士として、共に考えていく。アーティストやデザイナーに、年齢関係ないでしょ?同じ立ち位置で物事を考えていける関係性にいたいかなと思います。
まとめるようやけど、リベラルアーツ(ULA)の中には、今を生きる人たちが一緒に考えようという空気がある。共通教育ではそういうのが大事なんちゃうかな?僕やったら、社会と美術を教育でつなぐっていうトピックでね。実技は先輩後輩あると思う。経験値とか、技とかね。でも思考する部分についてはそれは無い。それを担うのが共通教育だと思ってて。ともに考えましょうと思う。
––– 教える、教えられる、だけではなく。
そうそう。で、それにいろんな分野があるわけでしょ。宇宙であったり、哲学であったり、語学であったり。その充実度が、京芸の大事なところやと思うね。
––– ただ技術を学ぶだけではなくて。まあもちろんそれは大事なんですけど。
そう。それに至るまでにはいろんな方向から物事を考えていかなくてはいけない。その方向っていうのが、このリベラルアーツにあるんじゃないかな。そういう意味では私自身もこの取り組み(共通教育の教員のユニット、Unit of Liberal Arts(=ULA))に可能性を感じてるし、京芸だからこそできることじゃないかなと思う。リベラルアーツやりたかったら他の大学いけば良いねん。
––– そうですね、宇宙の物理やりたかったら理数系行けば良いですもんね。
そう、あそこのな、でっかい学校に勉強して入ったら良いねん(笑)アートっていう軸、それが大切っていう気がします。